出口治明さん講演「これからの働き方」#2

出口治明さん2

赤ちゃんを増やしたければ、「シラク3原則」をやればいい。

少子化についても、先進国の傾向は「子どもも、仕事も」です。選択肢でやっている国など、どこにもありません。しかも、先進国はぜんぶ出生率が上向いてます。両立支援という政策をやってるからですね。

典型がフランスで、10年間で出生率が0.5上がり、2.0を回復しています。
フランスの「シラク3原則」という政策では、まず女性に聞いたんですよね。「どんな時にがんばって赤ちゃんを育てるか?」と。そうしたら、ほとんどの女性が「ほんとに生みたいと思った時に産んだらがんばって育てると思います」と答えた。そりゃそうですよね。
じゃあ、その通りやろうというのが第1原則です。つまり産みたい時に産むのが人間にとって一番幸せだと。すごいシンプルでわかりやすいでしょ。女性が産みたい時と経済力が一致するはずがないので、その差は政府が給付しますと。無職でも、産みたいと思ったら産めばいい。貧乏にしません。これだけですね。そうしたら、待機児童ゼロが必要になるでしょ。

第2原則は待機児童ゼロです。
フランス人に言わせたら、「日本ほど待機児童にゼロにしやすい国はない」と。「なんでや?」。「少子化で小学校中学校、統廃合してる。なぜ教室を壊す? そこに保育園作ればいいじゃないか」「ちょっと待ってよ。文科省と厚労省の関係、ややこしいんやで」「そんなもん、安倍さんがアホ!って言ったら終わりだろ。この少子化で縄張り争いするなら、文科厚労省にしてしまうぞ!と言えば終わりじゃないか」。
だから、フランス人に言わせれば、「日本の待機児童問題は、政権に希望者全員を義務教育にする根性がないだけの話」で終わりなんですよね。そう言われれば、衆議院も参議院も絶対多数なんで、その気になれば法案なんかすぐできますよね。

第3原則は育児休養をキャリアの中断と扱わない。
これは『育児は仕事に役立つ』(浜屋祐子・中原淳/著)という光文社新書の本にも書いてありましたよね。めちゃいい本です。あまりに良かったんで僕もNHKの朝の総合テレビで推薦したんですが、データとして育児したら賢くなることがわかってるんです。
育児休養から戻ってきたらキャリアがランクアップするといいんですよね。留学と一緒で、賢くなって戻ってくるんだから。「育児休養」という言葉を止めて、「育児留学」としたほうがいいかも知れないですよね。育児休養の間、キャリアを中断したり、ランクダウンなんてことはありえないわけですから、それを法律で厳禁にしたらいいんです。

「シラク3原則」はその3つです。
必要な財源はGDP比で1から1.5%の間。フランスの家族予算はGDP比3.5、日本は1.5です。フランスは「シラク3原則」以外にも家族の手当を行っています。僕は、赤ちゃんを増やしたければ、この通りやれば増えると思っています。

日本のおじさんの中には必ず、「フランスと日本は国が違います。マネできません」と言う人がいる。「なんでですか?」と聞いたら、「恋愛自由な国でしょう。みんなが不倫して赤ちゃんをいっぱい産んでるんですよ」と。「その証拠に婚外子が5割超えてるじゃないですか」と言う。こういうおじさんに会うと、「もうちょっと勉強してよ」と言いたくなるんですが。
これGoogleで検索したら瞬時にわかるんですが、G7の中で日本だけが婚姻が歪んでるですよね。カナダ、アメリカは女性の年齢で言えば、24歳が第一子で、25歳が初婚です。ヨーロッパは27歳が第一子で、28歳が初婚です。つまり、全部できちゃった婚なんです。日本だけ29歳が初婚で、30から31歳が第一子。なんでや?
全世界、赤ちゃんを連れた女性を見たら、言うことは決まってるんですよね。「かわいい赤ちゃんだね。産んでくれてありがとう。がんばって育ててや。困ったら助けるからね」と。これ以外にも言うことはあると思いますよ。でも、必要十分でしょ。
ところが日本だけ、その女性が法律婚をしていないと「ふしだらだ」とか「だらしない」とか、アホなことを言うおじさん・おばさんがいるんで、婚姻が歪んでるんですよね。先進国は全部できちゃった婚。日本も昔はそうでした。
この話をあるところでしたら、「ひと言いいですか」と手を挙げた男性がいて、「出口さんの言う通りです。僕はロンドンに10年住んで、3カ月前に帰国しました。ロンドンの女性は赤ちゃんを産んで、パートナーが自分と赤ちゃんのケアをちゃんとするかどうか見極めるまで簡単に籍なんか入れません」と。数字やファクトをちゃんと見れば、いかにいろんなことがわかるか、ということですよね。

僕の友人が大学でこっそり不倫の研究をやってます。なんでこっそりかと言えば、日本では「不倫の大家」と言ってもテレビに出られない、尊敬されないと言うんです。
彼に言わせれば、不倫は実は日本がブッちぎって多い。なぜかというと、先進国では女性も男性も働いているので、DVとかが起こった瞬間に家を出るんで不倫なんかしてるヒマはないと。
じゃあ日本はなぜ?と聞いたら、男女が好きになったり嫌いになったりすることと仕事は何も関係ないのに、日本の大企業ではアホなことを言うおじさん・おばさんがいて、「家庭のコントロールができなくて部下のコントロールができるか」とかボケたことを言ってる。それで、みんなが世間体を考えて、仮面夫婦をやってる。仮面夫婦って寝室も別なんで、基本的には婚姻が壊れます。無理して夫婦をやってるわけですから、恋愛感情が生まれて不倫が起こるのは当たり前で、その某教授に言わせたら、婚姻が歪んでるから不倫という歪んだ現象が起こるんだと言うんです。婚外子が多いのは先進国全部そうで、なんの不思議もないということがわりますよね。不倫でもなんでもない。
タテ・ヨコ・算数で見ていくと、いろんなことがわかるでしょ。

これからの日本は、生産性を上げるしかない。

いまの日本の現状は世界で一番高齢化が進んでいます。なにもしなくても1年経てばみんな1歳歳をとるんで、介護や医療で予算ベースで5千億円のお金が新たに出ていきます。上積みされるわけです。
お金が出ていったら貧乏になるということはわかりますよね。ということは、この国の二択は貧乏になるか、この分GDPを上げて取り戻すか以外の解はないということはわかるでしょ。

GDPって人口✕生産性でしょ。「シラク3原則」をやっても、人口はすぐには増えない。だから僕たちの場合の選択肢は、みんなで貧乏になるか、生産性上げるしかないんですよ。

生産性と国際競争力はほとんど一緒の概念で26位、生産性は22位です。あまり変わらない。国際競争力は1991年だったら1番なんで、みなさんががんばらないと落ちていくしかないでしょ。そんなのイヤでしょ。26番とか22番とか、めちゃいい加減でしょ。10番ぐらい上げようと思ったら、めちゃ楽しいでしょ。

とくに女性のみなさんは、女性の社会的地位って今年も3つ落ちて144カ国中114というひどさですから、100番ぐらい上がるんですよ。楽しいでしょ。「私たちはなんとラッキーなんだろう」と。労働力不足で、上司とケンカしても食いっぱぐれない環境。144分の114という無限に改善ができる環境に置かれてる。人生楽しいなぁ、とうれしくなってきたでしょ。そうじゃないですか?

「三歳児神話」ほど日本の社会を蝕んできたものはない。

ただ、なんで生産性が落ちたのかを考えなければ解は出ません。

ある出版社にAとBという編集者がいる。
Aは朝8時に出社して、夜10時まで働く。お昼もデスクの前でパンをかじってる。パソコンにしがみついてても、いいものはできないので、Aの本はあんまり売れません。
Bは10時ぐらいに会社に来る。来たらスタバでウエイターとダベってる。夜は6時に会社を出て飲み行って戻って来ない。でもいろんな人のアイデアをもらって、ベストセラーをいっぱい出す。
みなさんは、この出版社の社長です。どっちを評価して給料上げますか? A? B?

これがシャープやソニーのカラーテレビ工場だったらどうですか?
Aの前のコンベアは8時〜10時で製品がいっぱいできるでしょ。Bの前のコンベアは10時に動いたと思ったら、スタバストップ(笑)。夜6時に止まってしまうんで、あまりでき上がらないですよね。
製造業の工場モデルが社会を引っ張っていた時代は、力が強い男性が長時間労働をすることは高度成長をするんですよ。だから、「メシ・風呂・寝る」でいいんですよ。
そうすると、女性は家に置いといてケアしたほうが社会全体としてはうまく回るんで、産後被保険者とか配偶者控除とか飴を与えて、「寿退社」とか「三歳児神話」というでたらめをでっち上げて、製造業の工場モデルに過剰適応して、製造業をやってきたことが戦後の日本の高度成長の秘訣なんですよ。

この中で一番罪が重いのは「三歳児神話」ですね。今でも働きに行く保育園に子どもを預ける時に子どもが泣くんで、一部のお母さんは「ごめんね。お母さん、仕事があって面倒みてやれなくて」と言って罪悪感を持って仕事に行く。こんなでたらめを女性に思わせることほど罪深いことはないですよね。

これは、もう科学的には完全に証明ができていて、まず赤ちゃんが大人と別れる時に泣くのは悲しいから泣くのではなくて、注意を引きつけたいから泣くということを、みなさん知ってますよね。
これは、50年以上前にまだ脳の学問が進んでない時に、長谷川町子さんという天才がいて、「サザエさん」の漫画で見事に描いています。ワカメちゃんがエンエン泣いてます。タラちゃんがツツーと寄ってきて「家に誰もいないよ」と言ったら、ワカメちゃんが「あ、そう」と言って瞬時に泣き止む。わかりますよね。赤ちゃんのほとんどはお母さんを引きつけるために泣いているんであって、心の中では「早く仕事行ってよ。友だちと遊びたいよ」って言ってるんですよね。

家族問題の最高権威と言えばみなさんの知ってる人では京大の山極壽一総長。ゴリラの先生が家族問題の権威の一人で、20年前からいっぱい本を書いてるんですよね。結論は簡単で、「ホモ・サピエンス、我々人間は集団保育で社会性を養ってきた」という結論があります。これは世界中の人類学者で反対する人は皆無ですから、集団保育をするのが人間の普通の姿なんですよね。

こういうふうに説明しても、まだ一部の日本のおじさんに「そんなことはない。お母さんが24時間面倒みてるのが一番いい」という人がいるんで、そういう人にはこういう質問するんです。「あなたが尊敬する大好きな上司と二人で、マンションの一室で24時間仕事したいですか?」と。したい人、います?
ワンオペと言われているお母さんと赤ちゃんの二人きりの育児は、いかに人間性に反したものかはすぐわかるでしょう。だから育児ウツとか起こるのは当たり前なんです。
こういうことは全世界ですでに実証されています。だからフランスなどでは、0歳児から赤ちゃんは一人で眠らされますよね。それが普通。じゃあフランス人が変な人に育っているかと言ったら同じように育ってますから。

世界中がそうなんで、そういうふうに科学的、合理的に育児をしないと話にならないわけで、この「三歳児神話」ほど日本の社会を蝕んできたものはないと思いますね。こういう大事なことを考えたら、戦後の日本はうまく行き過ぎたわけで、「男は仕事、女は家庭」という製造業のシステムが日本の害悪の根源ですよね。

→ 出口治明さん講演「これからの働き方」#3

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