出口治明さん講演「これからの働き方」#1

出口治明さん1

2017年11月25日、東京・五反田のゲームカフェ「THE WIN WIN」にて行われた、ライフネット生命創業者・出口治明(でぐち はるあき)さんの講演「これからの働き方」を文字による再録でお届けします。

社会をちゃんと見るには、「タテ・ヨコ・算数」で考える。

この前、選挙があって、安倍さんがええとかあかんとか、みんな言ってましたよね。小池さんはどーよ?とか。でも安倍さんは一人、小池さんも一人なのに、なんでみんなの見方は変わるんですか? それは、みなさんが色眼鏡で安倍さんとか小池さんを見てるからですよね。
つまり人間て、見たいものしか見ないんですよ。これは人間の脳の癖なので、しょうがないんです。だから、それがわかっていれば方法論が要るということがわかりますよね。

社会をちゃんと見るためには方法論が要る。それには、「タテ・ヨコ・算数」の3つがあります。
タテは、人間の脳みそって1万年進化してませんから未だに変わらないので、「昔の人がどう考えていたのか」。これがタテです。で、ヨコは「世界の人がどう考えてるのか」です。

たとえば、僕は中学校で源頼朝は北条政子と結婚して鎌倉幕府を開いたと習いました。これを素直に考えたら、日本は夫婦別姓の国やなと誰でもわかりますよね。色眼鏡付けずに考えたら。足利義政と日野富子もそうですよね。
で、世界を見たら、OECDと呼ばれている35の先進国の中で夫婦同性を法律婚の条件にしている国は、実は皆無なんです。こういうタテ・ヨコで見れば、夫婦別姓のような考えは日本の伝統と違うなとわかる。
「夫婦別姓は、家族を壊す」とか言ってるおじさん・おばさんは困ったことにけっこういるんですけど、タテ・ヨコにファクトを見るタイプじゃなくて、イデオロギーや思い込みでしゃべってる人やなということがわかりますよね。
だから、どんなことにでもタテ・ヨコってものすごい役に立つんです。

「エレファントカーブ」と呼ばれている有名なグラフがあります。タテ軸は20年間で給与が増えたか減ったかです。ヨコ軸は豊か貧しいか。最近の話題で言えば、アメリカとジンバブエとか考えたらいい。
で、20年間で給与がどれだけ増えたかという単純なファクトを、220くらいの国や地域を点として打っていったら、誰かが「このライン、象みたいや」と言ったんで、世界中で象のチャートとして有名になりました。
見ると、中国などの中間層が豊かになっている。中間層が豊かになるとどんな社会でも安定するんで、グローバリゼーションっていいなあとなりますわね。
アメリカの経営者は、工場をどこへ移しても儲かる。でもアメリカの労働者はメキシコへ工場が行っちゃったら儲からへん。で、この人たちが怒って、ちょっとヤバイけど1回トランプおじさんに食わしてもろたほうがええかもわからんと思って、トランプ大統領が生まれた。このチャートを作ったブランコ・ミラノビッチは、そういうふうに考えたわけですね。彼は世界銀行のチーフエコノミストを務めていた世界でも有数の優秀なエコノミストです。このグラフはどうでもいいんですが、言いたいことは、トランプ大統領の当選は算数でわかるということです。

「All supporting All」にすれば、不満が無くなる。

日本は少子高齢化が進んでいて、若いみなさんに話を聞いたら、「未来はけっこう暗い」と言う人が多いんですよ。その理由を「なんで?なんで?なんで?」って聞いていったら、このグラフに行き着きました。

昔は、若者10人で高齢者1人の面倒をみてた。「お神輿」だった。でも将来は、「肩車」になるんじゃないか。「そんなのいややで」と言う人が多いんですよね。この考えは、何が間違っていると思いますか? 「Young supporting Old」と言ってますが、若者が高齢者の面倒をみて楽しいですかという話ですよ。
人間は動物ですよね。動物の中で若者が高齢者の面倒をみてる例を知ってる人? そんな動物はいないんですよ。ということは「不自然だ」ということがすぐわかりますよね。

少子高齢化が先に進んだヨーロッパでは、この考え方は20年前にすでに消え去っていて、「All supporting All」です。20年前に「年齢なんか考えずに、みんなが社会を支え、困った人に給付をしよう」という考えに行き着いてます。
若者ばかりに働かせて高齢者を嫌悪させるくらいなら、高齢者にも働いてもらって所得税でお金を取って、住民票で年齢をチェックして配ればいいでしょ。で、みんなで社会を支えようと思ったら、消費税を増やす以外に方法はないでしょ。そうですよね。
それから、シングルマザーや困った人に給付を集中しようと思ったら、マイナンバーを作るしかない。少子高齢化って何かと言えば、所得税と住民票で社会が回っていたレベルから、消費税とマイナンバーが社会のインフラにならないと回らないパラダイムシフトのことを少子高齢化と言ってるだけなんです。
でも、「All supporting All」と考えたら、若い皆さんも平気でしょ。だって、若者とおじいさん・おばあさんの比率は関係が無くなる。おじいさん・おばあさんも生きてる限りごはんは食べる。「消費税を払ってるんやから、ええやんか」と考えたら、全然平気ですよね。だから、常識を疑うって大事ですよ。

「定年」を廃止すれば、一石五鳥。

僕と僕より3つ年上のお姉さんとで、「敬老の日を無くそう」という運動をやろうとなりました。みなさんが敬老の日を無くそうとなったら、おじいさん・おばあさんは激怒するでしょ。「なんにもしない若いヤツらが何を言うねん」と。でも、古希を迎えた僕と僕より3つ年上のお姉さんがやるんやったら文句言わへんでしょ(笑)。
じゃあ敬老の日をどう変えるのか? 「高齢者が若者をサポートする日」にする。そのほうが動物として自然ですよね。
言葉は意識ですから。制度も意識ですから。敬老の日なんて、あんなものがあるがゆえに若者が高齢者の面倒をみないといけないという刷り込みが行われているのであって、とんでもない話ですよね。

でも、高齢化は大変ですよ。なんで大変かというと、団塊の世代が後期高齢者になったら介護がしんどいと、みんなが言ってるんですよね。介護を減らさなあかん。
介護を減らそうと思ったら、健康寿命を伸ばすしかないんですよ。どうやったら増やせるか? 医者50人ぐらいに聞いて歩いたら、全員が「働いたらいい」と言う。そうですよね。僕の日本生命時代の後輩(楠木新さん)が『定年後』という本を中公新書から出して、めちゃ売れてるみたいですが、これは「仕事を辞めたら心身ともにぶよぶよになって弱っていくで」という本なんです。働いたらええに決まってますよね。

考えたら、やるべき政策は「定年の廃止」です。一石五鳥ですよ。
まず第1に、健康になる。
2番目に、医療や年金の財政はもらうほうから払う方に変わるのでダブルで良くなるでしょ。
3番目に、年功序列が消えるでしょ。定年止めて年功やってたら、会社はすぐにつぶれる。ということは、同一労働同一賃金になるんで、若い人にはラッキーでしょ。

僕は10年間ライフネットの社長、会長をやって、この6月に辞めたんですが、後任は33歳と37歳の若い二人に託しました。二人の年齢を足したら僕の年齢になるんで、「年齢で選んだんですか」と言われました(笑)。もちろん、そうではなくて。150人いる社員をよく見たら、この二人がまとめる力が強いわけで、優秀な人に立ってもらったらええというだけですよね。でも、銀行、保険、証券で、日本で30代の取締役って皆無ですよ。なんでできないんや。ライフネット生命は定年がないからできるんですよ。誰がなってもいい。
だから定年や年功をやめるって、若いみなさんにとってめちゃいいですよね。

Googleでは年齢はおろか、人事部が男女の性別のデータも捨てたみたいですよ。だって、どんなキャリアだって、今何をしてるか、将来何をしたいのかがわかってたら人事異動はできる。育児休暇は男女どっちも取るんで、男性か女性かというデータは持つ必要がない。そういうのは差別につながるので持ったらあかんと。今はそのくらい進んでますよね。名前とキャリアと今してる仕事と将来の希望さえ分かってれば、男でも女でも関係ない。年齢も関係ない。そうですよね。

人間の常識って恐ろしいですよね。ニューヨークフィルという有名な交響楽団があって、欠員が出るたびに音楽監督やコンサートマスターと呼ばれている能力・実力・経験・人格の立派な人が後任を面談で選んでた。ある人が気がついた。新しく入ってくるメンバーは白人の男性が多いなと。それで、ブラインドオーディションにした。どうなったか? 言わなくてもわかりますよね。女性が増え、有色人種が増え、高年齢者が増えて、ニューヨークフィルのレベルが格段に上がった。
ということは、コンサートマスターや音楽監督という立派な人でも、見た目にだまされるポンコツな脳みそしか持ってないんですよ。「ポンコツな脳みそ」というのは、僕が尊敬する脳学者・池谷裕二先生の口ぐせです。

こういう事実を知っていれば、どこかの大企業のおじさんで、たかだか5年とか10年人事をやっただけで、「社員を採用する時は人間力を見なあかん。オレがちゃんと見るんや」というのは、いかに傲慢で、愚かな考えかわかりますよね。
あなたは、ニューヨークフィルの音楽監督やコンサートマスターより上だと思ってるのか、とかツッコミ入れたくなるでしょ(笑)。そんなこと、そのおじさんの好みで選んでるだけですよね。人間の脳みそっていかに、だまされやすいかっていうのがわかりますよね。

4番目に、労働力を供給できる。
日本の現状は、僕ら団塊世代200万人の労働人口が消えちゃうのに対して新社会人は100万人。これからの日本はものすごい労働力不足になります。2030年には800万人以上足らないと言われているんで、みなさんはめちゃラッキーですよね。だって、上司とケンカして飛び出しても、ぜったい餓死するということがない。そういう状況だったら、定年をやめるというのはプラスですよね。労働力を供給するんですから。

最後の5番目は、中高年のやる気が出る。
ある大企業で講演を頼まれて、50歳過ぎたおじさん・おばさんを200人以上集めるから、やる気の出る話をしてくれと言う。その会社は50過ぎたら、みんな仕事を流してやるんだそうです。
それで、人事の担当者に「どんな制度やってるんですか?」と聞いてみたら、53歳で役職定年、60歳で定年。65歳まで延長はあるんだけど給料は2割。それで、その担当者に聞いてみました。「君が50になったらどうする?」「そうですね、やっぱり流すと思いますね」(笑)
わかってるやんかと。
そしたら君の仕事は、僕にやる気が出る講演を頼むんではなくて、社長に「定年やめましょうって言うことじゃないの?」と言ったら、「勇気がありません」と。あかんな(笑) 「一人ではしんどいだろうから、じゃあ人事部全員で行って来い」と言って、講演はしたんですけどね。

だって、人生100年と言ってるのに、50歳でそろそろ…なんて、もったいないじゃないですか。なんでこんな当たり前のことができないんだ。社会常識が邪魔してるだけですよね。
そんなの世界中にないです。アングロサクソンは、履歴書に年齢欄があるだけで捕まります。年齢による差別だと。だって、仕事って意欲・体力・能力の問題でしょ。年齢も性別も関係ないですよね。だから、社会常識ってほんとに恐ろしい。

→ 出口治明さん講演「これからの働き方」#2

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